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CMJKの東京サイバーパンク回顧録 その⑥  タンメン

CMJK

この連載はぼくが東京でサイバーパンクを感じる場所に赴いて景色を撮影し文章にまとめるというものでしたが、6月くらいからちょっと忙しくしてましてどこかにロケに行って撮影して文章にまとめるという作業がなかなか出来ませんでした。すみませんでした。

ロケに行かずとも原稿の題材になるような、もっと身近にサイバーパンクを感じられるものはないのか?と考えましたが考えるまでもなくぼくは元々たくさんの物にサイバーパンクを感じていました。

まずは立ち食い蕎麦屋です。サイバーパンクとは?を決定付けた代表的な映画の一つである「ブレードランナー」冒頭のシーンで主人公デッカードは土砂降りの酸性雨の中立ち食い蕎麦屋でうどんを食べています。ですので、立ち食い蕎麦屋はサイバーパンクだ!うどんはサイバーパンクだ!と言い切りたいところですがブレードランナー好きから「でしょうね」と言われて話は終わってしまいます。

そもそも立ち食い蕎麦屋は主に労働者用に素早く食事を提供する為に狭い立地で営まれるもので、雑居ビルが所狭しと立ち並ぶような雑多な都会ならではのものです。そこには「必然」があります。郊外の広々とした蕎麦屋で提供される香り高い手打ち蕎麦よりも、都会の小さな店舗でスピーディーに出されるソフトな麺の立ち食い蕎麦やうどんの方が圧倒的にサイバーパンクなわけです。

東京はグルメ都市で世界中のおいしいものが食べれます。しかしインバウンドで海外から来られた方からも国内で地方から来られた方からも殆ど支持されない東京〜関東ならではのニッチなローカルな食文化というのは実はたくさんあります。ぼくはそれらに「必然」とサイバーパンクを感じます。そういったものをいくつかご紹介していきたいと思っております。

まずはタンメンです。タンメンは昭和30年、西暦1955年頃横浜で誕生したと言われています。約70年の歴史を誇り東日本で生まれ育った身としては物心ついた時から最寄りの町中華には必ずあるメニューであり、タンメンについて特別何かを考えたこともない方も多いでしょう。それくらい当たり前の食べ物なのですがぼくはある日タンメンの特殊さ、ニッチさ、実はローカルフードだったという今まで見えてこなかった現実に初めて向き合うことがありました。

クラブで朝までDJをやった翌日の昼、後輩とランチに行くことに。二日酔いだったぼくはどうしてもタンメンのスープが飲みたかった。そもそもタンメンの定義は、豚こま肉、玉ねぎ、もやし、にんじん、キャベツ(白菜のお店もあります)、きくらげ(入っていないお店も)を中華鍋で炒め鶏ガラスープを鍋に直接注ぎ、スープが白濁する寸前くらいまで煮込んで中華麺を投入した一品で、この上なくシンプルです。ですがスープには豚こまの脂と野菜の甘みが溶けこみ、なんとも言えない優しい味わいで、二日酔いにはぴったりなわけです。

小ぢんまりした町中華に入ったぼくは席に座ると同時にタンメンを注文。後輩もぼくを待たせると悪いと思ったのか「自分も」と。ほどなくして2杯のタンメンが運ばれてきた。

「これがタンメン?なんですね〜。自分、見るのも食べるのも初めてです!」と後輩。後輩は現在東京で生活しているが生まれも育ちもも大阪。

あ〜二日酔いにスープが沁みる〜と感激しながら食しているぼくを不思議そうに眺めながら後輩が衝撃的な一言を口にしました。

「まあ、おいしいですけど、これって、チャンポンを頼むお金が無い人が食べるものですよね?」

後輩の文化的にはチャンポンの方が上位で、タンメンは仕方なく食べる代替品、だと。これにとても驚いた自分はこの後しばらくタンメンの研究にハマりました。

中京地方在住の知人は「大人になってから存在を知った。子供の頃は見たこともなかった。中京地方はスガキヤ!」と。チャンポン、とんこつラーメン文化の九州の方に至ってはおそらく生涯食べることも無いかもしれません。

「あって当たり前」過ぎて考えたこともありませんでしたが、タンメンは自分の想像以上に特殊でニッチなイースト・ジャパンのローカルフードだったのです。

発祥の店とされる一品香野毛店(現在は閉店)をはじめいろいろなところでタンメンを食べ歩きました。そして自分的に導いたタンメン研究の結果を発表すると、、、どこもおいしくてものすごい大きな差は無いので最寄りの町中華のタンメンを気軽に食べるのが最高、という結果に至りました笑。

SF映画によく出てくるペースト上の「ディストピアめし」に慣れてしまった未来人は生野菜やステーキをおいしくないと感じるかもしれません。人間は慣れ親しんだものが一番安心安全、おいしいと感じる生き物なのです。

ぼくもチャンポンだってたまには食べます。海鮮の出汁が効いていて高級感がありおいしいです。でも1回食べたらもうしばらくは食べたいと思わない。しかしタンメンは違います。東日本人間の自分的にはあの優しい「なんてことなさ」に飽きることはありません。月1〜2回は食べてます。


自体から最寄りの、最も多く食しているタンメン。「こういうのでいいんだよ」感の極み。


隣町の行列のできる有名町中華のタンメン。さすがにおいしいです。


この原稿を書くために食べてみた某チェーン店のタンメン。
キクラゲが入っていないからか激安でほぼワンコイン。
それでもじゅうぶんおいしかったです。しかしタンメンてあまり映えませんね 笑。

Profile

CMJK

1967 年 8 月 21 日 宮城県仙台市出身 ミュージシャン、作曲家、編曲家、音楽プロデューサー、DJ。 1991 年に電気グルーヴのメンバーとしてデビュー。 その後 Cutemen、CONFUSION といったユニットで活躍し、1990 年代の日本のテクノ、クラブシーン黎明期の礎の一翼を担った。さらに浜崎あゆみ、DREAMS COME TRUE、SMAP、Kis-My-Ft2、V6、私立恵比寿中学、アンジュルム、Juice=Juice、など多数のアーティストのサウンドプロデュースを手がける。 2016 年にはファッションブランド「BEAMS」創業 40 周年を記念したプロジェクトとして、40年間の東京のカルチャーをファションと音楽という2つの視点から振り返るミュージックビデオ「TOKYO CULTURE STORY 今夜はブギー・バック(smooth rap)」のサウンドデザインと編曲を担当し、2017 57th ACC TOKYO CREATIVITY AWARDSにてゴールドを受賞した。 そのほか映画、ドラマ、アニメ、CM 音楽、ファッションショーの音楽の制作等々、多岐にわたって活動中。

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