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ハッピーエンド

俳優

祷キララ

2023、夏、真っ盛り。
制服のロングスカートを蹴りながら、髪をふりみだしてずんずん行くのは、私。「フミ」と呼ばれて振り向くのも また私。

映画「HAPPYEND」のこと。

思い返せば、1人で見えないなにかに挑んでた。ずんずん行こうとしながら、焦ったり不安になったり。理由もわからないままで、先を急いで揺れていた。
撮影中。私はたまに頭痛がして、人の目が気になって、悩んで迷って走っていた。不甲斐ないけど、あの頃の自分。
でも、幸せだった。

監督のネオさんや、ハヤト、ユキト、シナ、ゆうちゃん、アラージ。いつだって仲間として手を差し伸べてくれる人たちがいた。

彼らが笑ってくれるたび、私もなんだか笑ってしまう。
そして時々ふと思う。急いで駆けたこの道に、大切なものを見落としてきたかもしれない。振り返って、ゆっくり戻ってみようか。このまま突っ走ってしまおうか。ちょっと休憩したって、いいか。
案外大丈夫なのかも。

「フミ」は自分の目で世界を見ようとしている。信念を持ったキャラクター。さらに、私が演じたので頑固だ。主人公たちの5人グループからも、クラスメイトからもはぐれもの。
けれどキャストの5人は、「ご飯食べに行くけどくるー?」「撮影見に行くけどいくー?」本当に毎日、連絡をくれるのだった。

工事中か何かでクーラーの効かない教室。撮影の合間、外へ出て風を浴びた。わらわらと人が集まる。なんの話をしただろう。

大きな山場が一つ終わって、みんなで街へ出かけた。小さなテーブル席でぎゅうぎゅうになって焼き鳥を食べた。笑い疲れて電気も消せずに寝落ちた。

5人組は映画の中で、音楽研究部に所属している。私は所属してないんだけど、ネオさんが作った「音楽研究部」というライングループにはなぜか私も入っている。この連載に添える写真の確認で昨日、久しぶりにメッセージ。みんなは釜山にいるはずだ。夜中にも関わらず全員からすぐにライトな返信があって、嬉しくなった。(撮影スケジュールの関係で、写真にアラージがあんまりいない…)

撮影が後半に差し掛かった頃、撮ったばかりの素材をつなげた冒頭映像の鑑賞会が開かれた。昼休み、食堂に人が集まる。落ち着かないようすの5人。そのほとんどが映画に出ることも、演技自体も、この作品が初めてだ。そしてたった今、生まれて初めて自分の映画を観ようとしている。中島歩さんが、「これが今、人生初なんて、最高じゃん!」と誰よりも興奮していて、みんなで笑った。笑いながら、私も心からそう思った。きっと一生心に残る時間を、共有しようとしてるんだ。そわそわ、わくわく、ざわめいていた食堂が暗くなり、上映が始まった。

拍手が鳴る。

顔をみあわせる。

私は思った。 「HAPPYEND」は、面白くなるぞ!

校長役の佐野史郎さんが、あるシーンの段取りの合間「芝居も音楽のようにやりたい」と話していた。佐野さんの芝居も、そのつくり方も、本当に楽しくて興奮した。

不協和音、転調、ユニゾン、ハーモニー。人間たちの化学反応。つくりものの世界のなかに飛び込んで、行き着く先に驚かされる。頷いたり、がっかりしたり。押し合いへし合いぶつかり続ける。

そしてまた、冒険が始まる。

芝居は踊りで、音楽で、

ああ。思い出した。

やっぱり面白いなあ!

まだまだもっと、やってみたい。

映画全体のオールアップ前日、私はクランクアップした。

その日撮影がなかった人も集まってきてくれて、5人と再会。

ふざけた写真をいっぱい撮った。

見返すと、写真のなかの私の顔はびっくりするほど晴れていた。

頑張る!頑張れ!

バイバイ!バイバイ!

振り返りながら、小さくなってく5つの背中。

ラストシーンに向かう、戦士たちの後ろ姿。

頼もしく、美しく、輝いていた。


『HAPPYEND』
出演:栗原颯人 日高由起刀 林裕太 シナ・ペン ARAZI
   祷キララ 中島歩 矢作マサル PUSHIM 渡辺真起子/佐野史郎
監督・脚本:空 音央
撮影:ビル・キルスタイン
美術:安宅紀史
音楽:リア・オユヤン・ルスリ
サウンドスーパーバイザー:野村みき                  
プロデューサー:アルバート・トーレン、増渕愛子、エリック・ニアリ、アレックス・ロー アンソニー・チェン
製作・制作: ZAKKUBALAN、シネリック・クリエイティブ、Cinema Inutile
配給:ビターズ・エンド
日本・アメリカ/2024/カラー/DCP/113分/5.1ch/1.85:1 【PG12】

10月4日(金)新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開
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Profile

祷キララ

2000年3月30日生まれ、大阪府出身。2009年に『堀川中立売』でスクリーンデビュー。主演を務めた『Dressing Up』にて第14回TAMA NEW WAVE ベスト女優賞を受賞。数々の映画・ドラマ・舞台に出演。主な出演作に『左様なら』、『アイネクライネナハトムジーク』、『サマーフィルムにのって』、『忌怪島/きかいじま』、玉田企画『영(ヨン)』、iaku『モモンバのくくり罠』など。2024年2月4日から出演する舞台パルコ・プロデュース2024『最高の家出』が紀伊國屋ホールにて上演(他、地方公演あり)。

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